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ふなせいトピックス一覧

2026.01.30

ふなせいコラム:膝

 

人工膝関節全置換術後のリハビリテーション

本稿では、当院における人工膝関節全置換術後のリハビリテーションについて紹介します。 (人工膝関節全置換術の手術についての概要はこちらから)   当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。     目次 1. 人工膝関節全置換術とは?手術の概要と目的 2. 術後リハビリテーションの目的と重要性 3. 入院リハビリテーションスケジュール 4. 当院のリハビリテーションの特徴 5. さいごに   1. 人工膝関節全置換術とは?手術の概要と目的  人工膝関節全置換術は、変形性膝関節症、関節リウマチ、大腿骨内顆骨壊死などによって膝関節が損傷・変形し、強い痛みや関節の動きの制限、不安定性が生じ、日常生活に支障をきたしている場合に行われる外科的治療法です。  『変形性膝関節症 診療ガイドライン2023』では、人工膝関節全置換術は膝関節の疼痛軽減、可動域および支持性の改善を通じて、日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)および生活の質(QOL:Quality of Life)の向上に有効であることが示されています1)。   2. 術後リハビリテーションの目的と重要性  術後のリハビリテーションは、人工膝関節の手術を受けたあとの膝の動きや筋力を回復させ、日常生活を安全かつ快適に送るために欠かせない取り組みです。具体的な目的と重要性は以下のとおりです。 1) 術後炎症症状の軽減  人工膝関節の手術を受けたあとには、膝の腫れ・熱感・赤みといった炎症の症状がよくみられます。これらは、痛みを強め、膝の動きを制限し、太ももの筋力を低下させるなど、回復を遅らせる要因となります。この炎症を早く落ち着かせるためには、手術直後からの軽い筋肉の収縮運動(図3)が効果的とされています。軽く筋肉を動かすことで、血液やリンパの流れが良くなり、炎症のもととなる物質の排出が促されます。  実際に、Loydらの研究では、手術後にみられる腫れ(腫脹)の程度が、6週後の筋力や歩行能力の回復に影響することが報告されています2)。また、Paravlicらの研究によると、炎症が落ち着いても筋力の回復には時間がかかり、最大の回復までに6か月以上を要するとされています3)。  そのため、術後早期に炎症を適切に抑え、痛みや腫れによる筋力低下を防ぎながら、軽い運動を安全に始めることが、長期的な回復を遅らせないための重要なポイントになります。  当院では、手術の翌日から安全に配慮した軽い運動を開始し、炎症を抑えながら体の回復を促すリハビリテーションを行っています。 図3. 大腿四頭筋セッティング(タオルつぶし)   2) 術後合併症の予防  人工膝関節の手術を受けたあとは、血のかたまり(血栓)ができてしまう「深部静脈血栓症」や、それが肺に移動して起こる「肺塞栓」、また「感染」や「関節が硬くなる(拘縮)」といった合併症が起こりやすくなります。こうした合併症を防ぐために、リハビリはとても大切です。特に、手術から24時間以内にリハビリを始めることが推奨されています4)。  早めに足の運動や歩行練習を行うことで血流がよくなり、血栓が生じるリスクを減らすことができます。また、肺に血液がたまらないようにし、呼吸のトラブルを防ぐことができます。実際に、世界的なリハビリのガイドラインでも、早期にリハビリを始めることが合併症の予防や回復の早さにつながると示されています4)。  当院では、安全に十分配慮したうえで、手術の翌日から軽い運動を少しずつ開始します。無理のない範囲で体を動かすことで、合併症を防ぎ、安心して回復できるようサポートしています。   3) 筋力および関節可動域の回復・維持  人工膝関節の手術のあとには、太ももの前にある大腿四頭筋(だいたいしとうきん)の力が一時的に弱まり、膝の曲げ伸ばしが制限されることがあります。これにより、歩くことや階段の上り下りが難しくなることがあります。そのため、早い時期からのリハビリテーションがとても大切です。特に、軽い負荷をかけて行う「筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)」を取り入れることで、筋力や関節の動きを取り戻しやすくなり、痛みの軽減や生活の質の向上につながることがわかっています。  こうした運動は、手術後12週間以内に開始することで、より高い効果が得られることが報告されています5)。手術後には一時的に筋力が低下しますが、リハビリテーションを継続することで筋力は徐々に回復することが報告されています6)。  当院では、術後早期から安全に配慮しながら、足のトレーニングや膝の曲げ伸ばしを段階的に行うプログラムを実施しています。筋力を強くしながら柔軟性も高め、スムーズに日常生活へ戻れるようサポートしています。  図4 膝関節に対するリハビリテーションの様子   図5. 膝曲げ伸ばし運動(セルフエクササイズ例)   4) 日常生活活動 (ADL) の再獲得と生活の質 (QOL) の向上  人工膝関節の手術を受けたあとには、歩く・立ち上がる・階段の上り下りといった動作が一時的に難しくなることがあります。これらの動作を少しずつ取り戻していくことは、安心して自立した生活を送るための大切なステップであり、生活の質(QOL)の向上にもつながります。リハビリテーションでは、痛みや関節のこわばりを抑えながら、動きの安定性や筋力を徐々に回復させ、日常の動作を一つひとつ取り戻していきます。研究でも、術後に行う運動療法が、数か月以内に歩行や階段昇降などの能力を改善し、生活の質を高める効果があることが示されています7, 8)。  当院では、入院中から患者様一人ひとりの回復の段階に合わせて、適切な運動や動作練習を行っています。また、退院後もご自宅で続けられる運動方法をお伝えし、日常生活での自立をサポートしています。体力や回復のペースには個人差がありますが、多くの方が手術から1週間ほどで基本的な動作を習得されています。 図6 階段昇降および床上動作練習の様子   3. 入院リハビリテーションスケジュール   4. 当院のリハビリテーションの特徴 ① 術前評価で備える  術前に身体機能を評価し、術後リハビリの目標を個別に設定。安心して手術に臨める準備を行います。 ② 翌日開始で防ぐ  翌日からリハビリを開始することで、血栓や筋力低下の予防、早期回復を目指します。 ③ 退院前に安心を  退院前教室を通じて、日常生活への復帰に必要な動作や注意点を確認。不安なく退院できるよう支援します。 ④ 退院後も支え続ける  退院後は外来リハビリで継続的にサポート。動作能力の維持・向上や日常生活への適応を一貫して支援します。 図7 退院前教室の様子   5. さいごに  人工膝関節の手術を受けた後のリハビリテーションは、機能回復だけでなく、快適な日常生活を取り戻すために重要なプロセスです。ご自身の身体の状態に合わせて、適切なサポートを受けることが回復への近道になります。膝関節の痛みや日常生活における膝関節可動域制限などでお困りの方は、一度診察にいらしてください。   執筆:病院理学診療部 北田和英 監修医師: 二宮太志   参考文献 1) 日本整形外科学会(監修). 変形性膝関節症 診療ガイドライン2023. 南江堂. 2023; 111. 2) Brian J Loyd et al. The relationship between lower extremity swelling, quadriceps strength, and functional performance following total knee arthroplasty.  Knee. 2019; 26: 382-391. 3) Armin H Paravlic et al. The Time Course of Quadriceps Strength Recovery After. Total Knee Arthroplasty Is Influenced by Body Mass Index, Sex, and Age of Patients: Systematic Review and Meta-Analysis. Front Med (Lausanne). 2022; 9: 865412. 4) Diane U Jette et al. Physical Therapist Management of Total Knee Arthroplasty. Phys Ther. 2020; 100: 1603–1631. 5) Jaehyun Lim et al. Effects of Resistance Training on Pain, Muscle Strength, and Function in Patients Undergoing Total Knee Arthroplasty: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Clin Med. 2025; 14: 4979. 6) Armin H Paravlic et al. The Time Course of Quadriceps Strength Recovery After. Total Knee Arthroplasty Is Influenced by Body Mass Index, Sex, and Age of Patients: Systematic Review and Meta-Analysis. Front Med (Lausanne). 2022; 9: 865412. 7) Kristin J Konnyu et al. Rehabilitation for Total Knee Arthroplasty: A Systematic. Review. Am J Phys Med Rehabil. 2022; 102: 19–33. 8) Takaya Watabe et al. Preoperative factors associated with failure to achieve the minimal clinically important difference in quality of life following total knee arthroplasty. BMC Geriatr. 2025; 25: 476.  

2026.01.17

ふなせいコラム:膝

 

ジャンパー膝(膝蓋腱炎)のリハビリテーション

はじめに こちらのコラムでは、スポーツで膝の痛みがある方への対処法を理学療法士が解説いたします。 当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   〜目次〜 1. ジャンパー膝〜お皿の下が痛い〜 2. 原因〜なぜ痛くなるのか〜 3. 診断〜ジャンパー膝のみつけ方〜 4. 重症度分類〜どの段階まで進行しているか〜 5. リハビリテーション 6. さいごに   1. ジャンパー膝〜お皿の下が痛い〜  ジャンパー膝は、スポーツや部活動で繰り返される「ジャンプ」や「着地」を多く行う人にみられ、膝の痛みを主な症状とする障害です。特にバレーボールやバスケットボール、陸上競技(特に跳躍系)での発症頻度が多く報告されています。  本稿では、ジャンパー膝の原因や重症度の見分け方、効果的なリハビリ方法を解説します。 2. 原因〜なぜ痛くなるのか〜  膝のお皿(膝蓋骨:しつがいこつ)の下には膝蓋腱(しつがいけん)と呼ばれる、太もも前面の筋肉(大腿四頭筋)と脛(すね)の骨をつなぐ腱があります。この腱は、太もも前面の筋肉が伸び縮みしたときに、脛を引き上げたり下げたりします(図1)。   図1 膝の構造    また、着地からジャンプする際に力を貯めて放出する役割があります。ところが、急激な膝の曲げ伸ばしや、悪い姿勢での着地が繰り返されることで膝蓋腱に微細な炎症が起こり、膝の痛みにつながります(図1、写真1)。 写真1 悪い姿勢での着地 つま先が外を向き、膝が内を向く姿勢   原因には以下のものが挙げられます。 ✓硬い床面でジャンプ・着地動作の繰り返し ✓柔軟性の低下  (ハムストリングス、お尻、大腿四頭筋など) ✓急激な運動量の増加 ✓悪い姿勢での着地を繰り返す (写真1)   3. 診断〜ジャンパー膝のみつけ方〜 以下の症状・所見でジャンパー膝を疑います。 ✓膝蓋腱が押されて痛い ✓ジャンプやダッシュ、歩行や階段で痛い ✓画像所見(MRI・エコー等)  膝蓋腱の肥厚や炎症や変性が確認できる    骨折や骨の変形がないことを確認するために、レントゲン撮影も行います。   4. 重症度分類〜どの段階まで進行しているか〜 重症度は痛みの程度で分類されます。 ✓Roels分類   5. リハビリテーション  リハビリテーションの目的は、痛みの軽減と膝にかかっていた負荷を調節することです。膝にかかっていた負荷を下げるために、「どの動作で膝が痛むのか」を確認します。ダッシュやジャンプ、着地などの動作で痛みがある場合は、控えるよう説明します。  また、炎症による痛みが強く日常生活が制限される場合には、アイシングを15~20分程度実施します(写真2)。 写真2 アイシング   そして、膝蓋腱へのストレスを軽減するために、膝関節だけでなく股関節や足関節の柔軟性と筋力のチェックを行います(写真3~5)。 写真3 ハムストリングスの柔軟性チェック 写真4 お尻の柔軟性チェック 写真5 大腿四頭筋のチェック   リハビリ開始の段階では、柔軟性の確認とストレッチの処方を行います(写真6~8)。   写真6 ハムストリングスのストレッチ 写真7 お尻のストレッチ 写真8   大腿四頭筋のストレッチ    柔軟性、筋力を確認したあと、パワーポジションを確認します(写真9)。  パワーポジションは、素早く力を発揮したい時に体が最もスムーズに動ける姿勢のことです。ジャンプやターン、着地からダッシュなど、あらゆる動きの準備姿勢となります。  ジャンパー膝は、パワーポジションが崩れた状態で着地動作を繰り返すことなどで膝に負担がかかり、膝蓋腱に炎症が起こり膝の痛みに繋がります。パワーポジションの確認と修正は、ジャンパー膝の症状を軽減させるためにもとても重要です。 写真9 パワーポジションの確認   スクワット動作のチェック項目 1.正面 ✓肩のラインが床面と平行か ✓骨盤にある手のラインが床面と平行か ✓膝とつま先が同じ方向か 2.側面 ✓股関節で曲げられているか ✓体幹と脛(すね)が平行か ✓股関節と膝関節の動作のタイミングが合っているか 3.正面・側面 ✓足の裏の全面で接地できているか  (足先や、かかとが浮かないか)    さらに当院では経過に応じて、物理療法機器を利用した治療も行います。拡散型圧力波は慢性的なジャンパー膝に対し、徐痛効果と組織修復を目的として使用します(写真10)。 写真10 拡散型圧力波機器    ジャンパー膝のリハビリは、症状に合わせた治療や運動療法を選択し、必要に応じて物理療法機器を使用しながら治療を進めます。詳細につきましては、リハビリに来院された際に担当療法士へお尋ねください。   6. さいごに  ジャンパー膝は、重症化させないことがポイントです。また「段階的なリハビリテーション」を実施することで十分に回復が見込めます。「放っておけば治るだろう」ではなく、早期発見・早期対応が競技復帰の近道です。     執筆:船橋理学診療部 佐野求 監修医師:高橋謙二   参考文献 1)熊井司ら.軟部組織損傷・障害の病態とリハビリテーション.MEDICAL VIEW.2022 2)石井慎一郎ら.膝関節理学療法マネジメント. MEDICAL VIEW.2018 3) 林典雄ら.整形外科運動療法ナビゲーション上肢.MEDICALVIEW.2014 4) 八木茂典ら.Anterior knee painに対する機能解剖学的運動療法-膝蓋腱周囲の痛みについて.整形外科リハビリテーション学会誌.2010 5) 八木茂典ら.ジャンパー膝の分類と運動療法.Sportsmedecine.2012 6) 東山一郎ら.ジャンパーの病態:骨梁構造,組織学的検討.臨床スポー ツ医学.2010 7)日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会.膝蓋腱炎(ジャンパー膝).2023 8) 中村利孝ら.標準整形外科学第10版.医学書院.2008  

2025.05.09

ふなせいコラム:肘

 

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)のリハビリテーションについて

当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 1. 上腕骨外側上顆炎とは 2. 上腕骨外側上顆炎の症状 3. 上腕骨外側上顆炎の病態 4. 上腕骨外側上顆炎の検査方法 5. 上腕骨外側上顆炎のリハビリテーション 6. 日常生活での注意点 7. さいごに   1. 上腕骨外側上顆炎とは  上腕骨外側上顆炎とは、上腕骨の外側上顆と呼ばれる部分に付着する手関節、手指の伸筋群(手首を反らしたり、指を伸ばす筋肉)の腱に炎症を生じ、肘の外側に疼痛をきたす疾患です。テニスやバドミントンなどのラケットを使用するスポーツでの発症頻度が高く、バックハンドストロークの際に手関節が背屈し、インパクトの瞬間に痛いため「テニス肘」とも呼ばれますが、日常生活動作や労働により発症することが多く、30歳代の後半から50歳代に多いといわれています。職業では、1㎏以上の重い道具を使う仕事や、20㎏以上の物を1日10回以上持ち上げる仕事、2時間以上の繰り返す動きを伴う仕事が本疾患に関連していると考えられています。一般的な生活習慣の人で0.8~1.3%、労働者では2.0~12.2%に発症します。  ほとんどの患者さんはリハビリテーション(リハビリ)、投薬などの保存的治療で改善しますが、難治性となり手術が必要になることがあります。船橋整形外科グループでは上腕骨外側上顆炎と診断される患者さんは毎年1000人程いますが、そのうち手術になるのは10人、1%前後です(2019-2022年上腕骨外側上顆炎と診断された外来患者4361人、手術件数47件)。   2. 上腕骨外側上顆炎の症状  手を使った時に肘や前腕の外側に痛みが生じるのが主な症状です。タオルを絞る、物を持ち上げる、掃き掃除をするなどの動作が上腕骨外側の手関節伸筋付着部(手首を動かす筋肉が付いている部分)に最も負担がかかるため、痛みが生じることが多いです。   3. 上腕骨外側上顆炎の病態  上腕骨外側上顆炎は、主に短橈側手根伸筋と呼ばれる筋肉の腱付着部症であり、炎症や変性、微小断裂が生じている事が痛みの原因になっていると考えられています(図1参照)。しかし、同部位を治療したのみでは症状がとれないこともあり、輪状靱帯の肥厚、滑膜ヒダによる障害、軟骨変性などの関節内病変の関与も報告されています(図2・3参照)。 図1 上腕骨外側上顆炎の病態   図2 腕橈関節の滑膜ヒダ 図3 橈骨頭の軟骨変性 4. 上腕骨外側上顆炎の検査方法  日本整形外科学会の診断基準は以下の通りです。①手関節への徒手抵抗にて肘外側に疼痛が生じる(写真1参照)、②外側上顆を押すと強く痛む(写真2参照)、③腕橈関節の障害など伸筋群起始部以外の障害によるものは除く。  診断基準以外によくみられる臨床所見は、チェアテスト、中指伸展テストなどの疼痛誘発テストです(写真3、4)。いずれかに当てはまる場合は、上腕骨外側上顆炎が疑われる為、早めの受診をお勧めいたします。 写真1 手関節への徒手抵抗 写真2 外側上顆の圧痛 ※補足事項 ◎写真1  手首を反らした被検者(患者)の握り拳を、検者が抵抗を加えると疼痛が誘発されます。   <上腕骨外側上顆炎の検査例> 写真3 チェアテスト 写真4 中指伸展テスト ※補足事項  ◎写真3  手首を反らした状態で、椅子を持ち上げた際に肘の外側が痛む場合、上腕骨外側上顆炎を疑います。 ◎写真4  肘を伸ばした状態で、中指へ抵抗を加えた際に肘の外側が痛む場合、上腕骨外側上顆炎を疑います。  外来受診時の画像検査はまず単純レントゲン検査を行います。上腕骨外側上顆炎では石灰化像がまれにありますが、正常なことが多いです。変形性肘関節症、外側側副靱帯損傷などを鑑別するために行っています。難治症例に対してはMRIを行い、変性部の損傷程度、関節内病変の有無を確認しています。   5. 上腕骨外側上顆炎のリハビリテーション  熱感や腫脹を認める急性炎症期では、疼痛部位のアイシング(アイスパック等を使用して患部を冷やすこと)を実施します(写真5参照)。アイシングは1回あたり15分程度を目安とします。熱感、腫脹の軽減がみられても、肘関節の曲げ伸ばし運動での痛みが残存する場合は、痛みがない範囲で肘関節の自動屈伸運動や手関節を背屈する軽いストレッチングを行うことで関節周囲軟部組織の局所循環改善を図ります(写真6参照)。 写真5 アイシング   写真6 腕のストレッチ    また、上腕骨外側上顆炎と診断された方の多くは、肘関節の局所症状に加え、肩甲骨周囲の柔軟性が低下しているケースが多く、肩甲骨周囲の硬さが肘への負担を増やして痛みの原因となっています。肘関節の負担軽減を目的に、肩甲骨周囲のストレッチを行います。  (写真7参照)。 写真7 肩のストレッチ    さらに当院では、経過に応じてさまざまな物理療法機器を用いて症状に対応しています。 一例として、エコー検査機器(写真8参照)を用いて、圧痛部位の確認や筋肉・関節の動きを観察し、拡散型圧力波(写真9参照)を用いて症状の改善を図ります。  拡散型圧力波は、即時的な除痛効果と遅発的な組織修復効果があるとされ、上腕骨外側上顆炎に対しても効果的であるとされています。拡散型圧力波を施行し、1回目から症状の軽減を認める場合もありますが、2回目以降に症状の変化を自覚される場合も多く見受けられる為、効果判定を行いながらリハビリプランを検討していきます。 写真8 エコーを使用した検査例   写真9 拡散型圧力波の治療例     その他、上肢の筋力が低下していることが原因で、肘関節に負担がかかっている可能性も考えられます。このように、上腕骨外側上顆炎のリハビリにおいては、病態に応じた運動療法を選択し、必要に応じて物理療法機器を使用しながら治療を進めていく必要があります。詳細につきましては、リハビリに来院された際に担当の理学療法士へお尋ねください。   6. 日常生活での注意点  できる範囲で肘関節、手関節、手指の使用頻度を減らすように心がけることがリハビリを進めるうえで重要です。痛みが伴う動作は損傷部位に負担がかかっているので、なるべく控えるようにしましょう(写真10参照)。 写真10 デスクワークでの負担軽減方法 ※補足事項 ◎写真10  長時間のパソコン作業を行う際は、肘関節への負担を軽減する為に、前腕の腹側にタオル等を敷くことで、手関節背屈保持を軽減し、肩甲帯や上肢の過活動を抑えることができます。   7. さいごに  上腕骨外側上顆炎は上肢疾患の中で比較的多く見受けられる疾患の1つです。日常生活や、仕事での使いすぎによって症状が悪化するので、受診が遅れると慢性化する恐れがあります。  当院では船橋整形外科クリニック、西船クリニック、市川クリニックの3施設において、理学療法士が身体の状態を個別に評価し、一人一人に即したリハビリを提供させていただいております。安易に放置せず、早めの受診をおすすめいたします。   執筆:市川理学診療部 梶山裕太 監修医師:松葉友幸     参考文献 1)日本整形外科学会診療ガイドライン委員会.上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン2019.南  江堂.2019 2)中村利孝ら.標準整形外科学第10版.医学書院.2008 3)一般社団法人日本理学療法学会連合.理学療法ガイドライン第2班.医学書院.2021 4) 林典雄ら.整形外科運動療法ナビゲーション上肢.MEDICALVIEW.2008 5)相澤純也ら.整形外科理学療法ベストガイド.中外医学者.2018 6)日本運動器SHOCKWAVE研究会. 7)大歳憲一ほか:上腕骨外側上顆炎の疫学と保存療法.整形・災害外科,2020;63:1749-1756. 8)村田景一ほか:上腕骨外側上顆炎に対する鏡視下・直視下手術併用療法.整形・災害外科,2020;63:1811-1816. 9)Mullett H, et al. : Arthroscopic treatment of lateral epicondylitis ; clinical and cadaveric studies. Clin Orthop, 2005; 439: 123-128.

2025.03.07

ふなせいコラム:股関節

 

人工股関節全置換術後のリハビリテーション

本稿では、当院における人工股関節全置換術後のリハビリテーションについて紹介します。 (人工股関節全置換術の手術についての概要はこちらから) 当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 1. はじめに 2. 手術前のリハビリテーション 3. 入院中のリハビリテーション 4. 退院後のリハビリテーション 5. 最後に   1. はじめに  最小侵襲手術(MIS)は筋肉や軟部組織の損傷を限りなく少なくすることで、術後の身体への負担を少なくし、早期回復が期待できる手術法です。特に当院では日本で初めて筋腱温存に優れた前方アプローチ(DAA)を全例で採用することで、約1週間の入院で歩行が自立し退院することを可能としています。入院中に十分なリハビリを行うため、術後のリハビリテーションの通院頻度はそれほど多くありません。退院後、自宅で毎日セルフエクササイズを行うことで、十分な成果を上げることができます。そのため、遠方の方でも手術を受けやすい環境になっております。   2. 手術前のリハビリテーション  手術が決まった段階からリハビリテーションを開始します。手術前からリハビリテーションを開始することで、血流循環を良くし、筋柔軟性を高め、患部以外の筋力が向上し、術後のリハビリテーションをスムーズに遂行できるようになります。   3. 入院中のリハビリテーション ● 日常動作練習  当院では、術後1日目からリハビリテーションが始まります。理学療法士・作業療法士の指導のもと、ベッド周囲の動作練習や立ち上がり練習、歩行器を用いた歩行練習やトイレ動作の確認を行います。早期離床をすることで深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)の予防や、入院期間の短縮が期待できます。  術後2日目以降からは杖を用いた歩行や階段昇降、屋外の歩行も確認します。また、靴下の着脱動作や物を拾う動作、床上動作などの日常生活動作の確認も行います。入院中に集中的にリハビリテーションを行うことで、ほとんどの方が安定して杖歩行で退院することができています。 歩行器を使った歩行練習    階段昇降の練習   ● 脱臼予防指導  術後3週間は脱臼危険性が高くなるため、脱臼を防ぐための動作指導を実施しています。脱臼しやすい姿勢(禁忌肢位)となる動作の確認を行い、退院までに日常生活の中で禁忌肢位が起こりやすい場面でも安全にお過ごしいただけるように確認・練習を繰り返し行います。   ● 退院前教室  退院前には日常生活の動作指導や日常のちょっとした注意点を講義と実技指導を交えて行う退院前教室を開催しています。講義では退院後に許可される動作や就労活動の確認、脱臼についてなどを詳しく説明します。実技指導では日常生活で行う動作を練習します。自宅の状況に応じて布団に寝るための床上動作の練習などの動作を確認します。他にも歩行速度の計測、体組成の測定を行い退院後の生活がイメージしやすくなるような個別の説明も含めて行っています。   教室に参加していただく利点は、同じ手術をされた方が集うため、症状などの共有や自身が気付かなかったことでも他者の質問により知ることができ、退院後の不安を少しでも軽減できることです。   床上動作の練習    安全な靴下の履き方   教室の様子   4. 退院後のリハビリテーション  術後3週・6週・12週に定期外来診察があり、同じ日に外来リハビリテーションも並行して行います。時期によってできることが増え、リハビリテーションの実施目的も変化するため、段階的に新しいセルフエクササイズを指導させていただきます。  ※術後3週以降は、主治医と相談のうえ週1回の外来リハビリテーションに通院される方もいらっしゃいます。   術後3週までは、腫脹が増強しないよう炎症を管理しつつ、股関節の可動域を広げるようなストレッチングを中心に行います。この期間、痛みや腫れをコントロールしつつ、股関節の動きを徐々に回復させます。   術後3週からは、状態に合わせて徐々に筋力を強化していきます。殿部の筋力を強化することによって歩容の改善や、スポーツを希望される方はその競技の動作に向けた運動を行います。術後3ヵ月になるとハイインパクトスポーツ(マラソンなど)やコンタクトスポーツ(サッカーやラグビーなど)以外のスポーツ活動が許可されます。手術後でも生涯スポーツを楽しんでいくことが可能です。   セルフエクササイズの指導の様子   5. 最後に  人工股関節全置換術後のリハビリテーションは、家屋などの住環境・生活環境や身体の状態に合わせて皆様の「手術後にこうなりたい!」という目標や希望に合わせて提供させていただきます。手術は大きな決断ですが、より良い生活を送るための選択肢の一つになります。「手術を受けたい!」とまではいかなくても、股関節の痛みや日常生活における股関節可動域制限などでお困りの方は、まずは第1歩として、当院の診察に来て相談していただきたいと思います。     執筆:病院理学診療部 中村周平 監修医師:三浦陽子

2025.01.17

ふなせいコラム:股関節

 

変形性股関節症のリハビリテーション~股関節の痛みがある方へ~

変形性股関節症(股関節痛がある人)のリハビリ   当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 1. 変形性股関節症とは 2. 変形性股関節症の症状 3. リハビリテーション 4. セルフチェックシート 5. 最後に   1. 変形性股関節症とは  変形性股関節症は関節軟骨の退行性変化をきっかけに股関節の関節破壊・変形をきたす疾患です。原疾患が明らかでない一次性と何らかの疾患、病態に続発する二次性に分けられます。高齢者が要支援者(要支援1.2)になる原因の第一位は関節疾患であり、痛みや運動機能の低下を引き起こし日常生活動作作能力が低下することで自立した生活が困難となる大きな要因となっています。   2. 変形性股関節症の症状  初期段階としては動きはじめに鼡径部痛を認め、病期の進行とともに関節可動域制限、筋力低下、歩行障害、日常生活動作へ支障をきたすなどの症状が挙げられます。  変形が進行すると、その痛みが強くなり、場合によっては持続痛(常に痛む)や夜間痛(夜寝ていても痛む)に悩まされることもあります。   3. リハビリテーション  当院の変形性股関節症に対するリハビリテーションでは、痛みの軽減や身体機能改善・維持、または日常生活動作の維持・拡大を目的に関節可動域運動、筋力強化運動、歩行練習、生活指導などを行います。   ・ストレッチやマッサージによる柔軟性の改善  1. おしりのボールストレッチ  2. うつ伏せ ももの前のストレッチ  3. 座位四股(内もも、お尻)  4. 棒体操(胸周りのストレッチ) 図1-1 おしりのボールストレッチ   図1-2 ももの前のストレッチ   図1-3 座位四股   図1-4 棒体操①               図1-5 棒体操②   ・股関節周囲の筋力トレーニング  1. うつ伏せ 股関節外転  2. 股関節 外旋 図2-1 股関節外転 図2-2 股関節 外旋     ・日常生活指導  1. 杖の持ち手 振り出し方  2. 階段の降り方  3. 床への立ち座り  4. 車の乗り降り    4. セルフチェックシート  ① 痛みはないが、股関節(付け根、お尻)に違和感がある  ② 股関節が硬いため、靴下がはきにくい、爪が切りにくい  ③ 立ち上がる時に股関節が痛む  ④ 歩き初めに股関節が痛む  ⑤ 階段を昇り降りする時に股関節が痛む  ⑥ 長時間歩くと股関節が痛む  ⑦ 歩いているとき股関節がずっと痛い  ⑧ 痛みがある方の足を引きずって歩いている  ⑨ 上体を左右に揺らしながらでないと歩くことができない   5. 最後に  当院では股関節の状態を医師が判断し、療法士が各自に合った運動を作成、指導しています。股関節に痛み・違和感がある方、セルフチェックシートで1つでも当てはまる症状がある方は一度診察にいらしてください。   執筆:病院理学診療部 小吹祥平 監修医師:三浦陽子

2024.11.08

ふなせいコラム:スポーツ豆知識

 

足関節捻挫のリハビリテーションについて~足を捻った方へ~

はじめに こちらのコラムでは、足関節を捻ってしまった方への対処法を理学療法士が解説いたします。 当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 1. 足関節捻挫とは 2. どんな症状がおこる? 3. リハビリについて 4. さいごに   1. 足関節捻挫とは  足関節捻挫とは主にスポーツなどで見られる言わば捻ることで靭帯損傷を引き起こす足関節の怪我です。足関節に不安定感を感じるようになり、そのままにしておくと慢性化し何度も繰り返し、また足部の軟骨損傷、股・膝関節にも影響を及ぼします。そのため足関節捻挫は怪我をした後すぐに適切な処置とその後のリハビリテーションが重要になります。     2. どんな症状がおこる?  足関節は関節の外側に3つの靭帯、内側に1つ靭帯があります。内側に捻ることで外側の靭帯、外側に捻ることで内側の靭帯の損傷が引き起こされます(図1)。怪我した後すぐは腫れや痛みなどが生じます。軽症であればすぐに歩けます。またスポーツをすることができますが、重症のときは痛みなどで歩くのすらままならないケースもあります。そのほかにも動きの制限や筋力低下・バランス機能低下などの様々な症状が引き起こされます。 図1   3. リハビリについて ・受傷直後はなにをする?  受傷後直後は炎症を抑えることが大事です。一般的にはRICE処置(R:Rest安静、I:Icing冷却、C:Compression圧迫、E:Elevation挙上)を行います(図2)。  痛みや腫れがひどく、歩けないケースもあるためその際は松葉杖の使用やシーネ固定を行うこともあります。スポーツの復帰を希望される方には他の筋肉を落とさないように足以外のトレーニングを行います(図3)。 図2:アイシング   図3-1:体幹トレーニング 図3-2:おしりのトレーニング   ・痛みやはれが落ち着いてきたら  徐々に足を動かしていき、腫れや痛みで硬くなってしまったところの動きをよくしていきます。まずは痛みのない範囲からゆっくり動かしていきます。腫れや痛みの悪化がなければ徐々に回数を増やしタオルを用いたストレッチなどに移行していきます(図4)。 図4:足のストレッチ   ・動きがでてきたら  ある程度動きがでてきたら落ちてしまった筋力を戻す運動を始めます。初めは痛みがない範囲で足をつけないで行うチューブなどを用いてふくらはぎやすねの筋肉を動かしていきます(図5)。回復にあわせてつま先立ちやスクワットなど足をつけたトレーニングを開始していきます(図6)。 図5:チューブ運動   図6-1:つま先立ち 図6-2:スクワット   ・足が痛みなくつけるようになってきたら  不安定感をなくすためのバランストレーニングを開始します。片脚立ちや柔らかいマットやバランスボール上で立つなどのトレーニングをしていきます(図7)。バランストレーニングは再受傷しないためにも重要なトレーニングになってきます。 図7-1:片脚立ち 図7-2:バランスボール上   スポーツ復帰を希望される方は上記トレーニングに併せ競技復帰に向けたリハビリテーションを開始していきます。   4. さいごに  足関節捻挫は軽視されやすい怪我ですが、冒頭でも述べた通り正しい処置を行わないと慢性化し日常生活・スポーツパフォーマンスにも影響を及ぼし、時には重大な怪我にもつながりかねません。当院では足の状態を医師が判断したあと、各自に合った運動を療法士が作成し指導しています。受傷し炎症症状を伴う場合もしくはすでに慢性化してしまっている場合でも一度診察にいらしてください。     執筆:船橋理学診療部 山口彩音 監修医師:高橋謙二

2024.10.11

ふなせいコラム:肩

 

「腱板断裂」について整形外科医が解説

当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 腱板断裂とは? 修復が可能な腱板断裂に対する手術方法について 修復が困難な腱板断裂に対する手術方法について   腱板断裂とは? 腱板とは?:  人の腕は体の横に張り出すようについており、重力で下方に引っ張られているので不安定な状態です。それを肩の受け皿(肩甲骨関節窩)を支点として上下左右に動かすためには体の方に引き付けて安定化しなければいけません。その役割を担っているのが腱板です。 腱板に腕を動かす作用もありますが、主に動かす筋肉は三角筋、大胸筋、広背筋などの体の表層にある大きな筋肉です。  腱板は体と腕をつなぐようについています。体側は肩甲骨から始まり、腕の方は前、上、後ろを包み込むようについています。体側は4つの筋肉(肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋)から成り立っていますが、腕に付着するところは一体化し板状の腱組織になっています(図1)。 図1-1 腱板断裂がない肩。腱板は上腕骨外側につながっている(矢印) 図1-2 腱板断裂の肩。上腕骨への付着部で腱板が断裂する     腱板断裂とは?  腱板が切れて穴があいてしまうことです。原因は加齢による変性と外傷と言われています。例えば、20-50代であれば交通事故や高所からの転落など、強い力がなければ切れることは少ないですが、70-80代になると長年使っている腱は弱くなってきているので、手をつくなどの軽い外傷でも切れることがありますし、知らない間に切れていることも少なくありません。明らかな外傷歴があるのは6割です。   症状:  腱板断裂の症状は夜間痛、動作時痛、筋力低下、肩の可動域制限です。しかし、これらの症状は他の肩疾患でもよくみられますので区別はつけにくいです。腱板断裂を疑う特徴的な訴えは、肩より上に手を挙げて作業をしていると重くなってくる、何度も上げ下げしていると挙げられなくなる、食卓の上の物に手を伸ばそうとしてもすぐに手が出ないなどです。肩の可動域が良いのに力が入りにくい、挙げたり降ろしたりする時に途中が引っかかるように痛いと腱板断裂の可能性が高いです。   鑑別診断:  腱板断裂の症状と類似し、考えないといけない疾患は首の神経由来の病気です。腕を挙上する、手を使うなどの指令を出しているのは脳です。脳から大きな神経が首、背中、腰の骨の中を通り、それぞれの筋肉に枝を出して動かしています。肩を動かす神経は首を通っているのでそこが障害されると腕が上がらなくなります。首が原因の典型的な症状は首を後ろに曲げると電流が走るようなビリビリする痛みが肩から指先まで走ります。また肩を挙上する筋肉と肘を屈曲する筋肉は同じ神経なので、肘を屈曲する筋力も一緒に弱くなります。そのような場合は肩ではなく首の治療を行います。   腱板断裂の診断:  診察と問診に加えて画像検査にて行います。それぞれの検査に利点と欠点があるため選択して行っています。 MRI:腱板断裂の検査に必須です。腱板が切れている様子(図1-2、図2)、筋肉の萎縮の様子(図3)など多くの情報があります。ドーナッツ型の狭い機械の中に20分入り撮影するため、閉所恐怖症の方はできません。   右肩を正面から見たMRI 図2-1 正常(腱板断裂なし)。黄色の点線が腱板 図2-2 腱板断裂。上腕骨付着部で断裂して内側に引き込まれている   左肩を左側面から見たMRI 図3-1 正常(筋委縮なし)。黄色の点線で囲った黒い部分が正常な筋肉です。 図3-2 筋萎縮・脂肪変性像。棘上筋と棘下筋の筋肉(黒)が萎縮して脂肪(白)に変わっています。   単純X線:大きな腱板断裂だと上腕骨と肩峰(肩甲骨の上の部分)との間が狭くなるので診断できます。年齢と共に徐々に傷んできている場合は骨棘という骨のでっぱりが肩峰の下や上腕骨の大結節にできているのが腱板断裂を疑う所見です。左右の肩を比べてみると動きを代償するために肩甲骨の位置に左右差があることもあります。 超音波検査:5cm程の機械を肩に当てて行います。腕を動かしながら観察することができ、痛みもありません。腱板断裂の有無や大きさを判断できます。機器の進歩によりきれいに見えるようになりましたが、全体像をみることができません。   腱板断裂の治療法:  腱板断裂は年齢と共に増える疾患で、一般住民の方を検査した報告では50歳以下では5%でしたが、60歳代で25%、70歳代で45%の人に腱板断裂があったそうです。しかし、腱板断裂があった人のすべてに症状があったわけではなく、65%の人は無症状だったそうです。その方たちはどうして症状がなかったかと言うと、利き手と反対側であまり使っていなかったこと、肩の可動域が良好だったこと、残存腱板で筋力が保たれていたことだったそうです。  腱板は一度断裂してしまうと自然経過で元に戻ることはありません。手術によって治してしまうことが一番ではあるのですが、手術をしなくても、急性期がすぎて炎症が治まると痛みがひき、日常生活に困らなくなることもあります。しかし、良くなったと思ってそのままにしておくと徐々に断裂の大きさが大きくなり、力が入り難くなることもあります。  以上のことから、腱板断裂はすべて手術するものではなく、患者さんと相談して手術を決めています。目安としては80歳以下で活動性の高い方、3カ月程リハビリしても痛みや筋力低下が残る方、大きい断裂のためこれ以上大きくなると修復できない方、切れた断端がひっかかるような痛みが強い方が主な手術適応です。   腱板断裂の保存的治療(手術をしない方法):  急性期の痛みが強い場合は鎮痛剤(ロキソニンなどNSAIDs、アセトアミノフェン、トラマドール塩酸塩)内服、関節内注射(ステロイドと局所麻酔剤の混合液)を行います。リハビリで患部の安静とリラクゼーションのために就寝時の枕やタオルを用いた姿勢の指導を行います。  強い痛みが引いたら積極的にリハビリを行います。腱板断裂では肩甲骨と上腕骨の正常な動作ができなくなり、代償動作を行っています。肩甲骨周囲の筋肉が張ってしまい、肩甲骨が動きにくくなっているため、周囲の筋肉をリラックスさせ、正常な動作に近づけるリハビリをします。また腱板断裂によって腕を体にひきつける力のバランスが崩れているため、残っている腱板で代償してうまく使えるようにリハビリします。  保存的治療で痛みがなくなり、日常生活で支障がなくなるかどうかは患者さんの状態によって異なります。3カ月程リハビリをすると、そのままリハビリで改善するか、手術しないとよくならないかがはっきりします。   腱板断裂の手術方法:  腱板断裂のため日常生活に支障があり、リハビリや投薬で改善しない場合に手術を検討します。手術は腱板断裂の重症度(切れている大きさ、腱の質など)によって異なります。 腱板は筋肉で出来ているため、切れてしまうとゴム紐が切れたように奥に引き込まれてしまいます。また、時間とともに腱の質が悪くなったり筋肉の萎縮が強くなったりして修復が困難になることがあります。  腱板の断端を引っぱって元のところに戻せれば、腱板を糸で修復する手術を行います。切れてから長い時間が経ち、断裂が大きくなったり筋肉が萎縮したりして元のところに縫合できない場合は、上方関節包再建術や筋前進術、リバース型人工肩関節置換術を行います。  麻酔は全身麻酔と腕神経ブロックで行います。腕神経ブロックは首の付け根に注射をして肩から腕にいく神経を麻酔します。この注射によって最も痛みの感じる術後12時間はほとんど痛みを感じることがありません。入院期間は手術の前日に入院して、術後4-5日で退院するので、5泊6日または6泊7日です。     修復が可能な腱板断裂に対する手術方法について 腱板修復術:  当院では内視鏡を用いた、鏡視下腱板修復術を行っています。皮膚に5~10mm程の穴を5~8か所あけて関節鏡を入れて修復します(図4、5)。     小断裂の左肩術中関節鏡写 図4-1 修復前 図4-2 修復後   右肩の鏡視下手術の様子:内視鏡と機械を肩に入れてモニターを見ながら手術をします。 図5    糸のついたアンカー(図6)を元々腱板がついていた骨の部位に打ち込んで、その糸を断裂した腱板の断端にかけて、かけた糸を外側に別のアンカーを打って固定します(bridging suture法) (図7)。アンカーはプラスチックや骨に置き換わる素材で作られているため、特に問題なければ後になって抜く必要はありません。患者さんの肩の状態によって手術の難易度が異なるので手術時間は1-3時間ほどです。   図6   右肩(大きさ中程度の腱板断裂)を左肩を横から見た図 図7-1 断裂した腱板が元々ついていた上腕骨の位置にアンカーを2 本挿入して、引き込まれた腱板に糸をかけます。 図7-2 さらに外側ににアンカーを2本挿入して腱板にかけた糸を固定します。   修復が困難な腱板断裂に対する手術方法について 1.上方関節包再建術  棘上筋や棘下筋の大きな断裂では筋肉の高度な萎縮や変性を認める場合もあり、そのような場合には先ほど述べたような手術では十分に修復できない場合があります。仮に何とか修復しても再断裂のリスクが高くなります。上方関節包再建術は大腿部より採取した筋膜を腱板断裂部に移植し、さらに可及的に残存腱板を修復する手術です。このような方法により、萎縮し菲薄化した腱板に厚みをもたせて修復することができます。当院では大腿筋膜採取部以外は関節鏡視下に手術をおこなっております。また当院では肩関節を専門とした医師が数名で助手にはいることで、協力して腱採取と腱板修復を同時におこなっております。また本手術では関節を温存できることもメリットです。移植した筋膜や修復した残存腱板が骨に癒合するまで数か月かかりますが、術後のリハビリテーションにより可動域や疼痛が改善することが期待できます。(図8)   図8-1 腱板大断裂の図です。小中断裂では断裂した腱板を引っ張ってくることで十分修復することが可能ですが、大きな断裂では残存腱板のみでは修復ができない場合もあります。 図8-2 大腿筋膜を移植することで大きな腱板断裂に対しても修復することが可能になります。     2.筋前進術  上記と同様に、修復が困難と思われる大きな断裂に対しておこなわれる手術です。 棘上筋や棘下筋を肩甲骨の内側から剥がすことで、腱板を外側まで引き出すことができるようになります。本術式はすべて関節鏡視下に手術をおこなっており、少ない侵襲で手術をおこなえることがメリットです。近年導入している手術のため、まだ長期成績については不明です。(図9)   図9-1 大きな腱板断裂のイメージ図です。筋前進術も上方関節包再建術と同様に、比較的大きな腱板断裂に対しておこなう手術です。 図9-2 棘上筋や棘下筋は肩甲骨のさらに内側にある菱形筋と連続しているため、その連続性を保ちつつ肩甲骨から棘上筋や棘下筋を内視鏡下に剥がすことで、腱板を引き出して縫合できるようになります。   3.リバース型人工肩関節置換術  腱板断裂性関節症など腱板機能が破綻し修復不能な症例に対して,疼痛の改善と肩関節 機能の獲得を目的とする手術です。リバース人工肩関節置換術の適応は原則65 歳以上とされています。自動挙上が 90 度以下に制限されており、活動性のあまり高くない高齢者が最もよい適応とされています。手術のメリットは、腕の挙上や疼痛の改善が期待できる点です。また、デメリットとしては、背中に手を回す動作(内旋)の制限が残りやすいことがあります。通常の肩関節置換術では、人工関節のボール部分が上腕骨に取り付けられ、ソケット部分が肩甲骨に取り付けられます。しかし、リバース型ではこれが逆になります。具体的には、肩甲骨にボールが取り付けられ、上腕骨にソケットが取り付けられます。(図10) 図10    この手術方法によりリバース型人工肩関節置換術では三角筋が肩の主な動力源として使えるようになり、腱板が断裂していても肩の動きが改善されることが期待できます。当院での術後成績は安定しており、学会や論文でも発表しております。また当院では術前に撮影したCT画像をもとに、ナビゲーション手術(図11,正確に人工関節が設置されるようにコンピュータが支援)やPSI(図12,各患者の骨形態に合わせて立体的に作成した器械)を用いておこなうことも多く、より正確で丁寧な手術を心がけています。   当院でおこなわれているナビゲーション手術の様子です。CTデータを用いた術前計画に基づいて人工関節の設置位置・方向がコンピュータ画面上で指示されます。 図11 リバース型人工肩関節置換術のナビゲーション手術     当院で実際に用いているPSIの写真です。手術前に撮影したCT画像をもとに、各患者さんの骨形態に合わせてオーダーメイドで業者が作成した器械です。手術の際に滅菌して骨にあてることで、より正確な位置に人工関節を設置することができます。 図12 リバース型人工肩関節置換術で用いているPSI   手術後:  患部の安静のために、状態によって3~6週間装具を装着します(図13)。また手術後は肩の動きが硬くなりやすいのでリハビリが大事です。術翌日からリハビリを開始して、退院後は週に1-2回通院リハビリを行います。  退院後は車の運転など日常生活を送ることが可能です。手術をした組織の修復には約3カ月を要するため、再断裂は3カ月以内に多いと言われています。したがって肩に負担のかかかる軽作業が術後3カ月から、重労働やスポーツ活動は術後6カ月からにしています。  また当院では腱板修復後や人工関節後のスポーツ復帰に関しても積極的に支援しております。学会や論文でも発表しており、良好な成績がでております。  また必ず手術する前に10名ほどの肩を専門とする医師やその他にも理学療法士や看護師と交え、手術する患者さん1人1人に対してカンファレンスをおこなっており、それぞれの患者さんの需要に応じて最適な手術方法を選択し、ベストを尽くせるように心がけております。   当院で肩の術後に用いている装具です。入院期間中に看護師や理学療法士の指導により、自己脱着やシャワー浴が可能となります。通常の腱板断裂の手術や人工関節の手術では3-4週間です。大腿筋膜移植を併用した場合などは6週間程度の装具装着が必要となることもあります 図13 肩の術後に用いられる装具   執筆者 医師:上條秀樹、松葉友幸

2024.08.23

ふなせいコラム:人工関節

 

「人工股関節置換術」について

当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 1.人工股関節置換術はどんな手術? 2.人工股関節の寿命はどのくらい? 3.人工股関節置換術を受けるタイミングは? 4.人工股関節置換術後の生活は?   1.人工股関節置換術はどんな手術? 加齢や疾病、怪我などによって傷んでしまった股関節の骨を、人工関節に置き換える手術です。   図1 人工股関節           図2 手術後のレントゲン                                                 反対の股関節も変形性股関節症になっています   2.人工股関節の寿命はどのくらい? 以前の人工関節は15-20年くらいの耐久年数とされていました。 しかし現在は、人工関節に用いられている素材の進化によって飛躍的に長くなり、すり減り(摩耗)については30-40年、実験のデータでは50年とも言われるようになってきました。(*参考文献) 一方で骨折や感染などの原因によって入れ替え手術が必要となることもあり、骨粗鬆症の予防や健康的なライフスタイルの維持も、人工関節を長持ちさせるために大切です。     3.人工股関節置換術を受けるタイミングは? 以前は大がかりな人工関節の入れ替え手術(再置換手術)を避けるため、手術の対象は60歳以上と言われていました。 しかし人工関節が長持ちするようになったこと、人工関節の機能と手術方法が進化し短期間でアクティブな生活へ復帰しやすくなったこと、手術方法や機器の改良により低侵襲で再置換手術も行えるようになっていることより、他に有効な治療法がなければ30-40歳であっても人工関節置換術を受ける方が増えてきています。 また一つの関節の痛みを長期間にわたって我慢していると他の関節(腰椎など)も負担がかかり、将来的に複数の関節の手術を受けなくてはいけなくなることもあり、いたずらに痛みを我慢し続けるのも問題があると考えます。     4.人工股関節置換術後の生活は? 手術後の生活は手術方法や手術を行う施設によって異なります。 当院では全ての方に対し最小侵襲手術(MIS)にて行っており、約1週間の入院で歩行が自立し退院することができます。術後は段階的に運動を許可しており、術後3か月以降は運動、動作に制限を設けておりません。 健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)を伸ばし、元気でアクティブな人生を満喫するためにも、運動習慣を維持することは大切と考えています。 安全で侵襲の少ない手術は外科医の技量によるところも大きく、しっかりとトレーニングを受けた医師から手術を受けることが望ましいでしょう。   執筆者 医師:三浦陽子       *参考文献 1. K. Uetsuki, et al. Simultaneous improvement in the mechanical strength and oxidative resistance of Vitamin E blended UHMWPE. Proc. 58th Annu. Meet. Orthop. Res. Soc., 2012: 1073 2. M. Kyomoto, T. Moro, K. Saiga, M. Hashimoto, H. Ito, H. Kawaguchi, Y. Takatori, K. Ishihara. "Biomimetic hydration lubrication with various polyelectrolyte layers on crosslinked polyethylene orthopedic bearing materials." Biomaterials 33.18(2012): 4451-4459. 3. Rames, R. D., Stambough, J. B., Pashos, G. E., Maloney, W. J., Martell, J. M., & Clohisy, J. C. (2019). Fifteen-year results of total hip arthroplasty with cobalt-chromium femoral heads on highly cross-linked polyethylene in patients 50 years and less. The Journal of Arthroplasty, 34(6), 1143-1149.

2024.07.05

ふなせいコラム:肘

 

成長期の「内側野球肘」:診断と治療法

はじめに 野球を楽しむ小中学生のみなさん、今日は「内側野球肘」という怪我についてお話しします。「内側野球肘」の症状、診断方法、治療法、そして予防策について、わかりやすく説明します。 (当コラムはふなせいの医師が解説 野球肘の症状と治療法でも触れた「内側野球肘」について、成長期にスポットを当てた内容となります。)   当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   「内側野球肘」とは? 「内側野球肘」は、野球をしている子どもたちによく見られる肘の怪我です。特にピッチャーやキャッチャーのようにたくさんボールを投げることで、肘の内側に負担がかかって起きてしまいます。特に成長期の子どもたちは、骨がまだ完全に成長していないので、骨端線(成長線)に負担がかかり、投げるたびに痛みが出る状態をいいます。   内側野球肘の症状 「内側野球肘」の主な症状は、肘の内側の痛みです。痛みは最初は少しだけですが、だんだんひどくなり、特に投げるときに強く感じることが多いです。ひどくなると、肘の曲げ伸ばしがしづらくなることもあります。   「内側野球肘」の診断方法 「内側野球肘」かどうかを調べるために、肘の内側の骨の出っ張りが押して痛いかを確認します。またレントゲン検査や超音波検査も行います。これで、骨や靭帯、筋肉がどうなっているかを確認します。特に骨端線(成長線)が残っている場合は、靭帯の損傷ではなく、骨端線(成長線)や軟骨が痛んでいることが多いです。   「内側野球肘」の治療法 「内側野球肘」の治療の基本は、まず肘を休めることです。肘の内側の痛みが取れるまで、または肘の曲げ伸ばしの痛みがなくなるまで、投げるのをやめることが大切です。この間に肘に負担がかかった原因を見つけ、投げ方の見直しや練習量の調整など、再発を防ぐための対策を考えることが重要です。   「内側野球肘」の予防策 「内側野球肘」を防ぐためには、肘に負担がかからない投げ方を覚えることが大切です。また、練習量を調整して、肘に負担がかかりすぎないようにすることも必要です。適切なストレッチや筋力トレーニングを行い、体の柔軟性を保つことも効果的です。   まとめ 「内側野球肘」は、成長期の子どもたちによく見られる怪我ですが、適切な診断と治療、そして予防策を実施することで回復が期待できます。特に骨端線(成長線)の状態を確認し、適切な休息期間を設けることが重要です。また、肘に負担がかからない投げ方を覚え、投げすぎを防ぐことも再発防止につながります。親や指導者は、子どもたちの体の変化に注意を払い、早期発見と適切な対応を心がけることが大切です。 このコラムを通じて、内側野球肘についての理解が深まり、みなさんが安全に野球を楽しむための手助けになれば幸いです。 さらに詳しい情報については、以下のリンクをご覧ください。 ほっしゃん先生の肩肘ラボ #1 【内側野球肘】 学童期   執筆者 医師:星加昭太

2024.05.31

ふなせいコラム:腰

 

成長期のスポーツ選手に多い腰椎分離症の症状と治療方法について

はじめに  今回のコラムでは医師監修のもと理学療法士が腰椎分離症について解説していきたいと思います。 当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 1. 腰椎分離症とは 2. 腰椎分離症の症状 3. 腰椎分離症の検査方法 4. 腰椎分離症の治療法 5. 骨癒合率と癒合期間 6. さいごに   1. 腰椎分離症とは  腰椎分離症とは、スポーツなどで身体を反る動きやひねる動きを繰り返すことによって腰椎(背骨の下部)の椎弓という部分に負担がかかり生じる疲労骨折のことです。スポーツをしている10代に多く、成長期の腰痛のうち29.9〜55.2%が腰椎分離症である1,2,3)といわれています。    腰椎分離症は、疲労骨折の進行度で病期が分けられます。骨髄浮腫のある超早期に始まり、初期、進行期、終末期と疲労骨折が進行していきます。   2. 腰椎分離症の症状  スポーツ時の腰痛が主な症状で、特に身体を反る動きやひねる動きで痛みが出ることが多いです。運動時以外では腰痛は気にならないことが多いですが、無理に競技を続けているうちに、立つ・座るなどの日常的な動きでも痛みが出るようになる方もいます。発見が遅くなるほど骨折部位がつかず偽関節となってしまう可能性が高くなるので早期発見・早期治療が重要です。          3. 腰椎分離症の検査方法  レントゲン、CT、MRI検査にて画像診断を行い、骨折の有無と部位を確認します。一般的にはCT検査で骨折線の状態(いわゆるヒビなのか完全に折れているのか)を把握することで病期(患部の状態)を分類し、治療方針を立てます。しかし、CT検査は電離放射線被ばくを伴う検査で、小児は成人と比較して放射線被ばくの影響が出やすく、成長期の患者様の診療においては極力その機会を減らすべきであるといわれています4)。そのため、当院ではCT検査の代わりにFRACTUREというCT類似MRI5)を用いることで放射線被ばくのない腰椎分離症診療を行っています。   4. 腰椎分離症の治療法  治療用装具を使用して固定し、骨癒合(骨がつくこと)を目指す保存療法が一般的です。疲労骨折の骨吸収期である1ヵ月間は患部を安静にします。装具固定期間は治療用装具を用いて患部を保護します。病期(患部の状態)に合わせて段階的に運動療法(ストレッチや体幹トレーニング、スポーツ動作練習など)を行います。  患部の状態によっては骨癒合が得られる可能性が非常に少ない場合があります。その場合は骨癒合より症状の改善(スポーツ活動時の痛み改善など)を優先し、痛みに合わせて運動療法を行い、スポーツ復帰を目指します。   治療用装具(硬性コルセット) 当院では硬性コルセットを装着した状態で積極的に胸郭・股関節・下肢の柔軟性改善運動および体幹安定運動を行い、骨癒合に影響なくスポーツに復帰しています6)。    運動療法の例6)       当院における病期ごとの治療スケジュール6)   5. 骨癒合率と癒合期間  治療開始時の病期によって骨癒合率(骨がつく可能性)、癒合期間(骨がつくまでにかかる期間)が異なります。個人差はありますが、一般的にいわれている骨癒合率と癒合期間を示します。表およびグラフのとおり、病期によって骨癒合率7,8)・癒合期間9)が大きく異なります。   病期別の骨癒合率7) ※偽両側とは、すでに終末期分離がある反対側の椎弓に新たに分離が発生したため両側分離に見えるものとしています。   病期別の骨癒合期間8), 9)   6. さいごに  成長期の腰痛は腰椎分離症である可能性があり、医療機関で早期に適切な診断・治療を行うことが骨癒合のために重要です。骨癒合が難しい場合でも専門医の診断を受けリハビリテーションを行うことで、再び痛みなくスポーツができるようになります。当院では船橋整形外科クリニック、西船クリニック、市川クリニックの3施設で、療法士が身体の状態を個別に評価し、一人一人に即したリハビリテーションを提供させていただいております。スポーツ時の腰痛は安易に放置せず、早めの受診をお勧めいたします。   執筆者 理学診療部(監修:畠山健次医師 脊椎脊髄センター長)   引用文献 1)大場俊二ら.腰椎疲労骨折の早期診断と早期スポーツ復帰.日本臨床スポーツ医学会誌.2007; 15: 429-440. 2)兼子秀人ら.成長期腰椎分離症(疲労骨折)の保存療法における治療成績と問題点.日本整形外科スポーツ医学会誌.2019; 39: 263-268. 3)酒巻忠範ら.発育期腰椎分離症の早期診断と保存療法のポイント.整形・災害外科.2012; 55:467-475 4)木下大ら.腰椎分離症の画像診断の歴史と進歩.関節外科.2024; 43(5): 486-493. 5)Johnson B et al. Fast field echo resembling a CT using restricted echo-spacing(FRACTURE): a novel MRI technique with superior bone contrast. Skeletal Radiol 2021;50:1705-13. 6)畠山健次ら.分離部の骨癒合を目的とした装具療法と運動療法.関節外科.2024; 43(5): 543-549. 7)畠山健次.骨癒合を目的とした装具療法と運動療法.臨床スポーツ医学.2019; 36: 1114-1115. 8)西良浩一 : 腰椎分離症―Spine Surgeonが知っておくべきState of the Art―. 脊髄外科 25 : 119-129, 2011 9)寺門 淳ら : 当院における中高生の腰椎分離症の癒合率調査(第一報)―片側例に対する半硬性コルセットによる治療―. Journal of Spine Research 14(6) : 959-965, 2023  

2024.03.29

ふなせいコラム:腰

 

腰椎椎間板ヘルニアの手術療法について整形外科医が解説

今回のコラムでは船橋整形外科グループの脊椎・脊髄センター医師が腰椎椎間板ヘルニアの手術療法について解説させて頂きます。 (前回コラム「腰椎椎間板ヘルニアの症状と治療方法について整形外科医が解説」の続きとなっております。)   当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 ・腰椎椎間板ヘルニアに対して当院で行っている手術療法 ・腰椎椎間板ヘルニア摘出術(Love法) ・全内視鏡下腰椎椎間板摘出術(FED)     腰椎椎間板ヘルニアに対して当院で行っている手術療法  保存療法を行っても症状が改善しない、悪化してしまう方などには手術を行うこともあります。当院では主に顕微鏡下あるいはサージカルルーペ使用による椎間板ヘルニア摘出術(Love法)を行っております。この手術は椎間板ヘルニアを取り出し、神経への圧迫を取り除く手術です。  更に最近では、患者さんの状態によって、より小さな傷で手術可能な全内視鏡下腰椎椎間板摘出術も行っております。以下ではそれら2つの手術について解説していきたいと思います。   椎間板ヘルニア摘出術(Love法)  椎間板ヘルニアによる神経の圧迫症状が強い場合に行われます。手術は全身麻酔をかけて、腹臥位(うつ伏せ)で行います。手術による傷の大きさは、約3〜5㎝です。また手術中は椎間板の位置を確認するために、レントゲン透視装置を使用します。  椎間板ヘルニア摘出術(Love法)では腰椎周囲の筋肉を剥離して、腰椎に後方より到達します。そして、骨と黄色靭帯の一部を削り、硬膜に包まれた神経を避けて、椎間板ヘルニアを摘出し、十分に神経の圧迫が解除(除圧)されたことを確認し終了となります。  手術時間は1か所で通常1〜1.5時間程度ですが、麻酔や手術のセッティングを含めますと病棟に戻るまでおよそ2.5時間前後です。  手術直後は、ベッド上にて過ごしていただきますが、数時間後より問題なければトイレへの歩行など可能です。翌日よりリハビリにて立位歩行訓練を開始します。階段昇降が可能であれば早期に退院可能です。平均、術後5日ほどの退院が可能です。  退院後の生活ですが、自宅療養期間は、通常の場合、術後2週間〜1か月程度です。コルセットは術後1〜2か月間使用する必要があります。スポーツ復帰や重量物の挙上は術後3か月が目安となります。通院は、術後2週、1、3、6、12か月です。  いわゆるLove法の図(皮切は3~5㎝程度)     全内視鏡下腰椎椎間板摘出術(FED)  現在、限られた患者さんで行っている手術になります。内視鏡を使用して椎間板ヘルニアを摘出しますので、椎間板ヘルニア摘出術(Love法)に比較しいくつかの利点があります。 1.手術の傷が小さい(約7~8mm程度) 2.手術後の痛みが少ない 3.傷感染のリスクが低い  手術の流れとしては、全身麻酔を行った後、術中の神経の動きを確認する神経モニターを患者さんに取り付けます。そして椎間板の位置が手術中にわかるようにレントゲン透視装置を使用して造影剤と染色剤を使用して染色します。手術中はレントゲン透視装置と神経モニターを使用し椎間板の正しい位置に器械が挿入されているか確認しながら手術を行います。  FEDには、主に2つの方法があります。  腰椎の真後ろから椎間板にアプローチするインターラミナル(IL)法と腰椎の斜め後ろから椎間板にアプローチするトランスフォラミナル(TF)法があります。ヘルニアの存在する腰椎のレベルや圧迫している神経の位置やヘルニアの大きさなどからIL法とTF法を使い分けております。  手術中に解剖学的な問題や硬膜損傷、機器トラブルなどの内視鏡手術の継続が不可能であると判断した場合には、Love法(通常の切開手術)へ変更する場合もあります。  手術時間は1か所で通常1〜2時間程度ですが、麻酔や手術のセッティングを含めますと病棟に戻るまでおよそ2.5時間前後です。手術後の痛みも軽く、術後2~3時間から歩行が可能となり、術後2日ほどで退院することができます。  現時点では適応症例を厳選して行っており、すべての椎間板ヘルニア症例へ適応しているわけではありません。             FED法の図(皮切は8mm程度)        IL法              TF法   椎間板ヘルニア摘出術(Love法)と全内視鏡下腰椎椎間板摘出術(FED)、両術式ともに保険適応です。手術費用についてはこちらをご確認ください(Love法は椎間板摘出手術として記載してあります。FEDにつきましては、適応となった方のみにお伝えしておりますので予めご了承ください)。   執筆者 医師:小島敦   

2024.01.26

ふなせいコラム:腰

 

腰椎椎間板ヘルニアの症状と治療方法について整形外科医が解説

今回のコラムでは船橋整形外科グループの脊椎・脊髄センター医師が腰椎椎間板ヘルニアの症状と治療方法について解説していきたいと思います。   当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。     目次 ・ 人の脊椎(背骨)と椎間板について解説 ・ 腰椎椎間板ヘルニアとは? ・ 腰椎椎間板ヘルニアの検査方法 ・ 腰椎椎間板ヘルニアの症状とは? ・ 腰椎椎間板ヘルニアの治療法 ・ 腰椎椎間板ヘルニアに対しての主な保存療法 ・ 椎間板内酵素注入療法とは? ・ 椎間板内酵素注入療法の治療手順      人の脊椎(背骨)と椎間板について解説  まずは人間の脊椎(背骨)と椎間板について簡単に説明させていただきます。そのあと、腰椎椎間板ヘルニアとはどういった病気なのか解説させていただきます。  通常脊椎は、頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個、仙骨から構成されています。脊椎は椎骨という骨が積み重なってできており、椎間板はその間にあるクッションを指します。椎間板の中心に髄核があり、周囲を線維輪が囲んでいます。      腰椎椎間板ヘルニアとは?  椎間板に何らかのきっかけで負担がかかり、線維輪から髄核が飛び出すことがあります。この突出した部分がヘルニアと呼ばれています。ヘルニアが神経を圧迫すると下肢の痛みやしびれなどの症状が出現します。なお悪い姿勢での作業や喫煙などでヘルニアが起こりやすくなります。   腰椎椎間板ヘルニアの検査方法  まず画像診断を行う前に徒手的検査を行います。下肢の感覚異常の有無や筋力低下のチェック(神経学的検査)、下肢伸展挙上試験(SLRテスト)、大腿神経伸展試験(FNSテスト)を行います。  画像診断では椎間板はレントゲンには写らないため、MRI検査が有効とされています。MRI検査は神経や筋肉を描写することができるため椎間板ヘルニアの検査に適しています。また、放射線を用いないため身体に対しても低侵襲です。他にも状態に応じてCT検査や、造影剤を注射するミエログラフィ検査なども行われることがあります。   椎間板ヘルニアの症状とは?  片側の足に痛みやしびれなどの症状ができることが多いです。ふくらはぎやすねの外側などに痛みがみられます。また、痛みだけでなく筋力低下が生じ、足を持ち上げにくいなどの症状が出ることもあります。さらに重症の場合では尿が出にくいなどの症状(排尿障害)が生じることもあります。   腰椎椎間板ヘルニアの治療法  重症でない場合は手術ではなく保存療法からはじめるのが一般的です。保存療法で経過を見てゆくうちに症状が治まることもあり、長期的にはヘルニアが自然に縮小することもあります。保存療法で効果が認められない場合や重症の場合は手術療法が検討されます。なお、排尿障害や排せつ障害は生じた場合は緊急で手術を行うこともあります。   腰椎椎間板ヘルニアに対しての主な保存療法 ① 安静 腰に負担のかかる動作を避け、症状が緩和する姿勢をとるようにします。 ② 装具療法(コルセット) コルセットにより腰を固定し、腰部にかかる負担を減らします。 ③ 薬物治療 炎症を抑えるために鎮痛薬などを服用するのが一般的です。また湿布薬や塗り薬などの外用薬を併用することもあります。 ④ リハビリ ある程度痛みが緩和してくれば、腰部にかかる負担を減らすよう、ストレッチや腹圧を高める体操などを行います。 ⑤ 神経ブロック 痛みを生じている神経やその周辺に局所麻酔やステロイド薬などの薬剤を注射します。   椎間板内酵素注入療法とは?   当院では薬剤を椎間板に注入する椎間板内酵素注入療法と呼ばれる治療方法も行っております(手術療法とは異なります)。椎間板内に酵素を含んだ薬剤のヘルニコア®を直接注射して、ヘルニアによる神経の圧迫をやわらげます。ヘルニコア®を注入すると髄核内の保水成分が分解され、髄核の膨らみが緩和されます。入院期間は1泊2日となります。   椎間板内酵素注入療法の治療手順 ① 手術室で局所麻酔下に行います。レントゲン透視装置で椎間板ヘルニアのある椎間板を確認しながら、針を刺す場所を決めます。 ② 針を刺す位置を消毒し、皮膚と皮下組織に局所麻酔薬を注入します。 ③ 椎間板ヘルニアのある椎間板内に針を刺し、ヘルニコア®を注射します。 ④ しばらく安静にします。薬による副作用がないかなどの確認をします。 ⑤ 当院では、1泊入院し、翌朝問題がなければ退院帰宅できます。   【注意点】 過去にヘルニコア®による治療を受けた方は再度受けることはできません。またアレルギー体質の方や他の脊椎疾患が合併している方は注意が必要なので治療前に医師への相談が必要になります。     次回は「腰椎椎間板ヘルニアの手術療法について整形外科医が解説」を掲載させていただきます。   執筆者 医師:小島敦

2023.11.09

ふなせいコラム:背中

 

側弯症(小児例)について

はじめに 船橋整形外科クリニックで2019年から側弯症専門外来を開設いたしました(月1回土曜日午前中)。側弯症(主に小児例)について解説いたします。   当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   脊柱(せぼね)は通常、正面からみるとほぼまっすぐですが、脊柱が横方向に曲がり、ねじれを伴う状態を側弯症といいます。 自覚症状は無く、側弯症の大部分は学童期から思春期に発生し、学校検診で指摘されて受診されることが大半です。成長に伴い悪化することがあるため、早期の発見と管理が重要です。   詳細は日本脊柱変形協会(http://j-sdi.org/patient_and_family/)、日本側彎症学会(https://www.sokuwan.jp/patient/)のホームページにも記載がありますので、ご参照ください。   Q & A *原因は?  側弯症の約8割を原因不明の特発性側弯症が占めます。残りの2割が先天的に背骨の奇形があるもの、脳性麻痺、筋ジストロフィーやマルファン症候群などの疾患によるものなど、原因が判明しているものがあります。病因の一部に遺伝の影響があると考えられており、特発性側弯症患者の家族内にもしばしば側弯症患者がいることがあります。   *早期に発見するためには? ご家庭でもできるチェックがあります。 ・真っ直ぐに立たせた状態で背中を観察します。 まっすぐに立った状態で肩の高さ、肩甲骨の高さに差がある、ウエストが片方だけくびれて左右差がある。   ・両腕を前に垂らした状態で背中をおじぎさせて、前か後ろから確認します。 肩、背中、腰の高さに左右差がある。   これらのことが確認されましたら、側弯症の疑いがありますので専門医にチェックしてもらう方が良いと思われます。   *側弯症で何が問題になるのか? 学童期や思春期には自覚症状が無いことがほとんどですが、側弯症が進行し成年期になると加齢による変化も加わり腰背部痛で日常生活が困難になることがあります。 また、側弯が高度になると呼吸機能低下につながることがあり、肺活量の減少や息切れを感じるようになることがあります。   *治療はどのようなことを行うか? 側弯症の程度と年齢を考慮して治療法を選択していきます。   ・側弯が25度未満の場合には定期的なX線検査と診察を行います。 ・側弯が25度以上で、かつ成長期で側弯の進行が予測される場合には進行防止のために装具治療(写真のような硬性装具)を行います。   ・側弯が40度もしくは45度以上の高度になる場合には手術加療を視野に入れていきます。その場合には側弯症手術専門の病院に紹介いたします。     運動器検診で指摘されたり、ご家庭のチェックで側弯症が疑われる方がおりましたら、側弯症専門外来受診をお勧めいたします(船橋クリニック:月1回土曜日午前中)。   執筆医師:飯島靖

2023.06.02

ふなせいコラム:膝

 

変形性膝関節症の保存療法② ~リハビリについて~

  はじめに    膝に痛みのある患者さんに向けて、膝関節のリハビリテーションについて解説したいと思います。 当院の解説 船橋整形外科病院は千葉県船橋市に所在し、”整形外科における専門医療の実践”を柱とした整形外科専門病院です。手術件数などの詳細はこちらをご確認ください。   目次 1.身体機能のチェックポイントについて  ・膝関節伸展テスト  ・立ち上がりテスト 2.リハビリテーションについて 3.運動療法の効果について 4.まとめ   1.身体機能のチェックポイントについて    膝の痛みを減らすには自分の身体を知ることが重要になります。ここでは柔軟性、筋力のチェック方法について解説したいと思います。 ○チェックポイント ①膝関節伸展テスト(図1)  ・床に膝を伸ばして座り、床と膝の間に隙間が無いかを確認します。 判定:床と膝の間に隙間が無ければ正常。    隙間がある場合は下肢後面の柔軟性が低下しています。 図1 ②立ち上がりテスト(図2)  下半身筋力・バランス能力がわかります。  測定方法:台に座り、胸の前で腕を組み立ち上がります。(図2)  ※壁や机の近くで行い、転倒に注意してください。   図2 判定:台の高さによってできる動作が変わってきます。(図3) 図3 ○大腿四頭筋、殿筋について  立ち上がりで必要な筋肉はもも前にある大腿四頭筋、おしりの殿筋です。それぞれがどんな役割を持っているのかを解説します。 ・大腿四頭筋は歩行などで膝にかかる衝撃を吸収する役割があり、膝にかかる様々な負担を軽減することができます。 ・殿筋はお尻についている筋肉で身体を支えたり、バランスを保つ役割(図4)があり、動作時の安定性が向上します。これらの筋肉をトレーニングすることで膝へのストレスが軽減し、日常生活の質を高めることができます。   図4   2.リハビリテーションについて  変形性膝関節症の保存的なリハビリテーションには運動療法が有効になります。上記の身体のチェックで2つの項目がありましたのでその項目に沿って解説します ○下肢後面のストレッチ  膝関節の伸展テストで膝裏に隙間があった方はもも裏のハムストリングスと下腿後面の腓腹筋の柔軟性が低下しています。それに対する運動療法はハムストリングス(図5)と腓腹筋(図6)のストレッチを行い、柔軟性を改善することで膝関節伸展の可動域が改善され、歩行時に膝関節を伸展しやすくなります。 図5 図6 ○立ち上がりテスト  立ち上がりテストで40cmの台から両足で立ち上がれなかった方は立ち上がる能力の低下やバランス能力の低下しているため、歩行時に膝関節に負担がかかってきます。原因としてはもも前やお尻の筋力が低下しています。それに対する運動療法を紹介させていただきます。 ①タオルつぶし(図7):もも前の内側の筋力を強化します。  もも前の筋肉は立位姿勢や歩行時の膝を伸ばす際に重要な筋肉になります。 図7   ②チェアスクワット(図8)、③片脚立ち(図9)ではもも前とお尻の筋肉を強化します。椅子からの立ち上がりや階段などで使う筋肉や歩行時のバランス能力を向上させるのに重要な筋力になります。 図8 図9   3.運動療法の効果について  患者さんに合わせてトレーニング指導を中心とした体操教室を船橋整形外科西船クリニックで行ないました。変形性膝関節症と診断された患者さんを対象に疼痛3項目、身体機能評価6項目のアンケート調査を行い、教室参加なし群と教室参加群の比較を行いました。結果は体操教室に参加された患者さんで疼痛、日常生活動作に関係する項目で改善が見られました。詳細は以下に報告させていただきます。 ○膝関節の痛みについて  歩行時、階段昇降、荷重時の痛みでは教室に参加しなかった患者さんより教室に3ヵ月参加した患者さんの方が、痛みが改善したという結果でした。(図10) 図10 ○日常生活動作について  日常生活動作(歩行、階段昇降、立ち上がり動作、買い物、車の乗り降り)が大変かという質問に対して、ホームエクササイズを行なっている患者さんでも改善が見られましたが体操教室に参加された患者さんに大きな改善が見られました。(図11) 図11 4.まとめ  膝関節の痛みを止めるために、ストレッチやトレーニングをおこない、筋力と柔軟性を獲得することが大切です。適切な運動を実施し、痛みをださない・再発させないことが必要です。  当院では膝の状態を医師が判断したあと、各自に合った運動を療法士が作成し指導しています。膝の痛みで困っている場合は一度診察にいらしてください。   執筆:西船理学診療部 藤原教弘 監修医師:二宮太志

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