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肩関節の疾患と手術

関節鏡の使用

肩関節疾患は、皮膚や厚い筋肉などの外側の正常組織の奥深くに位置する関節(肩甲上腕関節)や肩峰下滑液包(図1)に病変が限局している場合が圧倒的に多い。関節鏡視下手術は、外側の正常組織を殆ど損傷せずに内部の病変部位の修復が可能であり、今後の発展が大いに期待される分野です。当センターでは、手術を要する肩関節疾患のうち、関節外の骨折や人工関節を除く、すべての手術を関節鏡視下に行っている。以下、代表的疾患とその治療方針および術式について紹介します。

 

反復性肩関節脱臼 頻発年齢15~35才

反復性肩関節脱臼とは?

スポーツ中の外傷などを契機として肩関節の脱臼が起こり、それが癖になって軽微な外傷でも肩が外れるようになってしまった状態を言います。スポーツ活動中だけでなく、ひどくなると日常生活や寝がえりでも外れてしまうこともあります。

 

何がどうなっているの?

肩関節(肩甲上腕関節)内の関節上腕靭帯という靭帯が、関節窩という受け皿から剥がれたり伸びたりしてしまって、靭帯として正常に機能しなくなった状態です。中には関節窩自体が最初の脱臼で骨折を起こしていてそのままになっているケースもあります。この古い骨折を伴うタイプはラグビー・アメフト・スノボーなどの激しいスポーツで受傷した人に多いようです。

 

治療法は?

従って、治療は手術にて壊れた関節窩の骨や靭帯を元に戻す必要があり、完治を望むのであれば手術以外に方法はありません。リハビリで周囲の筋肉を強化するなどとよく言われますが、多少の安定感は得られても、外力が加わったときにも外れない肩には決してなりません。ただ、ある程度高齢になると外れにくくなりますが、その後に外れると腱板断裂など新たな損傷を生じたり、将来的には変形性関節症になったりすることがありますので、やはり活動性の高い時期に手術できちんと治しておいたほうが良いでしょう。

 

手術方法は?

従来あるいは現在でも多くの施設で直視下法(メスで大きく切開して行う手術)が行われていますが、当センターではすべて関節鏡視下に手術を行っています。従来、直視下法は術後再脱臼率が低いですが(概ね5%以下)、手術創の問題のほかに、正常な組織を損傷したり正常な構造を変えてしまうため、術後の関節可動域の制限や“かたさ”のために、スポーツ種目によっては、スポーツ復帰率が悪かったり、復帰できても必ずしも充分なパフォーマンスレベルには至らないという問題があります。一方、関節鏡視下手術は、手術創が目立たなく、正常な組織を損傷しないため、術後の可動域制限が少なくスポーツ復帰率も高いですが、術後再脱臼率が高い(20%以上)といわれてきました。ところが、近年の病態診断学のレベルアップと関節鏡視下手術の技術レベルの向上は目覚しく、2000年以前とは隔世の感があります。実際、国内外で、術者・施設によっては、スポーツ復帰率が高いまま、再脱臼率で直視下法を凌ぐ成績を上げているところも出てきています。

 

関節鏡視下手術とは?

関節鏡視下バンカート法(スーチャーアンカー法)と呼ばれる手術で、正常な構造物を損傷せずに、壊れた関節包(関節の一番内側の靭帯)や関節窩の骨を修復する方法です。すなわち、スーチャーアンカーと呼ばれる糸つきの小さなビスを関節窩に打ち込んで、その糸で靭帯や壊れた骨を関節窩に固定する方法です(このビスは1年程度で吸収され消えてしまうので抜く必要はありません)。
さらに、関節内の病態や患者の年齢・性別・スポーツ種目によって補強術式を追加します(直視下法は患者によらず"まず術式ありき"だが、鏡視下法は"患者個々に合わせて微妙に術式を変える手術"であるところが両者の大きな相違点でもある)。創は5mm程度のものが3箇所できるだけです。入院期間は2~3日で手術翌日には退院となり、数日後にはデスクワークなら就労・就学可能です。
ただし、術後は着脱可能で衣服の上からつける装具で3週ほど患肢を固定します。個人差がありますが、術後1~2ヶ月で日常生活には不自由がなくなり、3ヶ月で軽いスポーツ、6ヶ月で大抵のスポーツ復帰が可能となります。ただし、ハイレベルでのスポーツ活動で不自由を感じなくなるまでには、最低でも術後1年ぐらいを要します。

関節鏡・関節鏡視下手術について

当センターでの実績

菅谷医師は、1999年より前任地を含めて反復性肩関節脱臼の関節鏡視下手術(スーチャーアンカー法)を行ってきました。この間、日々術式の改良や治療器具の進歩を重ね、現在では、トップアスリート(海外を含む)から一般の患者さんまで年間200例程度本症の手術を手がけています。 2002年以降当センターでの術後再脱臼率は概ね2%程度で、スポーツ復帰率はほぼ95%以上です。現在でも、究極の目標である術後再脱臼0%、スポーツ復帰率100%を目指して日々鋭意工夫を凝らしています。


腱板断裂 頻発年齢45才以上

腱板断裂とは?

腱板断裂とは、肩甲骨と上腕骨をつないでいる腱板という板状の腱が切れてしまったものを言います(図の○印)。
50歳以降に好発します。転倒して手や肘をついたり、重いものを持ち上げようとしたり、肩を捻ったりなど、外傷を契機として発症する場合が多いようです。ただ、さしたる外傷がなく発症することもありますので、整形外科にかかっていても、五十肩として扱われている場合も多いようです。“五十肩”が半年以上治らないようでしたら専門医を受診したほうが良いでしょう。
症状は、夜間痛、動作時痛とくに腕を上げるときや下ろすときに痛みや引っ掛かりを訴えることが多いです。また、肘を脇から離しての動作がつらく力が入らないのも特徴です。治療は、腱板が切れていても、時間経過と共に症状が軽快することが結構あり、注射や理学療法などの保存療法の効果がかなり期待できます。
ただし、活動性の高い人で、受傷後3ヶ月以上症状が続いている場合は、手術を要する可能性が高くなります。当センターでは、充分な保存療法と厳密な診察にて手術の必要性を吟味しています。
手術が必要な場合は、切開せずに小さな創を数箇所つくって行う関節鏡視下手術を、すべての手術の必要な患者さんに対して行っています。

 

関節鏡視下手術は、正常な組織である三角筋を損傷しないばかりか、診断も修復も正確かつ強固にできるので、直視下手術に比べそのメリットは計り知れません。
元来、術後の痛みの強い疾患ですが、直視下手術に比べて低侵襲な分術後の痛みがかなり軽減し、実際、入院期間は1週間程度で済みます。ただし、術後3週間程度は外転枕という着脱可能な装具をつけます。術後は個人差が大きいですが、日常生活復帰は大体2ヶ月、3ヶ月で軽作業、6ヶ月で重労働可能となりますが、完治となるのは術後1年頃です。


肩関節拘縮(外傷性、糖尿病性) 頻発年齢40~60才

肩関節拘縮とは?

肩関節拘縮とは五十肩に代表されるような、肩関節の疼痛と関節可動域制限を主な症状とする疾患です。
五十肩とは、上記の症状が、明らかな外傷やきっかけがなく徐々に疼痛(特に夜間痛)が出現し、肩関節の動きが制限されてくるものを言います。
このような五十肩は、痛みの強い時期は注射療法が、痛みが和らぎ関節可動域制限が主たる症状の時期には理学療法が奏功するため、手術に至ることは殆どありません。ただし、五十肩と同様な症状でも、大きな外傷や骨折などに続発する拘縮(外傷性肩関節拘縮)や、糖尿病に合併した拘縮(糖尿病性肩関節拘縮)の場合は、理学療法だけでは治らないか、かなり時間がかかることが多いので、手術をしたほうが良い場合があります。
手術はすべて関節鏡視下に行ないます。5mm程度の創が2~3箇所で、硬く厚くなった関節包と言われる関節の一番内側の靭帯を、ぐるっと一周切離する方法です。手術時間は40分程度で、肩関節鏡視下手術の中では比較的容易な手術です(関節鏡視下関節包全周切離術)。


投球障害肩(上方関節唇損傷=SLAP損傷、腱板関節面断裂)
頻発年齢16~30才

投球障害肩とは?

投球障害肩とは、野球やバレーボール、テニスなどオーバーヘッド動作でボールを投げたり打ったりするときの痛みを訴えるスポーツ障害です。 治療は、理学療法が中心で、肩の問題と言うよりは、むしろ肩甲帯や胸郭、体幹、股関節などに問題がある場合が殆どで、肩に負担のかからないフォームが遂行できるような体作りからはじめます。 従って、患者さんの頑張りにもよりますが、殆どの症例は理学療法で治ります。 既に肩関節の中が壊れてしまっている場合(上方関節唇損傷=SLAP損傷、あるいは腱板関節面断裂)で、理学療法の効果が上がらないか一時的に上がっても維持できない場合に限り(当センターで全体の5~8%程度)、関節鏡視下手術が必要になります。 術式は関節鏡視下で剥離した関節唇(SLAP病変)を切除するか修復するかのいずれかになります。また、腱板関節面断裂がある場合は、断裂部の掃除や切除が殆どですが、深く切れている場合は修復術を行います。


その他症状

インピンジメント症候群

関節鏡視下肩峰下除圧術:肩峰下滑液包の郭清(そうじ)と骨棘(余計な骨)の切除を行います。

 

肩鎖関節脱臼

関節鏡視下ミニオープン形成術:関節鏡を利用して小皮切で再建する方法です。


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